あおしまの日記

あおしまさんの日記らしいです。個人的に興味がある事を時々書きます。スマートウォッチPebble日本語パックを作成、公開しています。

行かなくちゃと思わせる本屋、行かなくてもいいやと思わせる本屋

書店には2つのタイプがある。書籍を売る努力をする書店と、本を物として扱い、現金と引き換える行為に注力する書店である。店員にも同様に2つのタイプがあり、書籍を売る努力をする店員と、本を物として扱い、現金と引き換える行為に注力する店員とがいる。前者を書店員、後者を物売りと呼ぶことにすると、書店に求められるのは前者であるが、それはあくまで理想であって、現実はそうはいかないので、店舗内に2つのタイプの人間が一緒に働いている場合も多い。

そういう書店員を育成するには時間が掛かるし、特定の方法論があるわけではない。そんなスローテンポで、全国展開する大型書店を回せるのか?となると、物売りに特化した店員を大量投入したほうが効率がいいように思える。特に現在の書店は、一時期の音楽CDよろしく大量に広告を打って平台に積み上げた新刊と雑誌による売り上げが多いだろうから、刹那的に消費される商品を捌くためには物売り店員に特化したほうが、というのは妥当な考えだろう。

しかし、物売り店員が増えると、今度は本の探索をするところ、すなわち書店員がボトルネックになる。そして、書店員が棚の面倒を見る時間も減り、本の所在がさらに解らなくなって行く。この部分は物売り店員ではカバーできないが、だからといってそこをいくら検索システムでカバーしても、実際の本を手元に持って来るまでは至らないので、そこで救える客数には限界があるだろう。そして(書店が悪いのではなく現在の取次方式が悪いのであるが)取り寄せに時間が掛かり、また書店チェーン内の転送もままならないとなると、刹那的でない本を求める客には、鈍重な店、使えない店というイメージを植えてしまいかねない。こういう客は確実にありそうな店舗(より大型、より専門性に長けた店舗)、短期間で確実に入手できそうな手段(ネット通販)へと移っていき、店舗に足を運びたいと思う客を失うこととなる。

丸善は、物売りを育成しても、書店員を育成するシステムが欠けている様に私個人は感じている。*1そこが、足を運ばなくてもいいシステムが出来てしまったのでそちらに客が流れて、容易に代替されてしまったのではないかと考える。つまり、どこでも買える本を、物売り方式で捌く事に特化するあまり、客が様々な手段に逃げられるようになったというのが原因ではないか。

また、プレスリリースにある、独立行政法人化移行に伴う学術書の売り上げ減少にしたって、他の書店が生協の校費システムでの支払いで対応出来ないからなあなあで丸善との付き合いが続いていただけだろう。*2ここにたとえばコンピューターにおけるDELLの様に*3Amazonが食い込んだら、同じ理由で皆こちらに傾くのではないかとも思う。*4

今回はその2つが合わさって、ここに至ったのではないかと思う。

では、店舗に足を運びたくなる書店とはどういう形態であろうか?と考えると、丸善と対極にあるジュンク堂が適当だと思う。広さだけではなく、その分野での深さ、在庫数と即応性で他を圧倒している様に感じる。ここも検索システムが置いてあるが、それありきではなく、支援システムという位置づけで、店員が主役のように見える。これらの店員はそれぞれの棚を把握し、客からの要望を受けるとともに、おそらくアンテナとなってフィードバックを掛ける事で棚に深さを持たせている様だ。このような書店員を育成することで、各書店員の目配り、気配りで広い店内が運用されているのだろう。また文化的イベントにも熱心で、店員もしばしばそのようなイベントを一緒に聴講しているという。カウンターは物売り専門担当という方もいるが、何か尋ねられた場合には検索システム担当や書棚担当へとすばやく取り次がれ、客を待たせることが少ないような工夫がされている。また、支店間での在庫についての情報交換、転送も行っているようで、取り寄せ時に支店間の融通によって、結果として取次よりも早く客の手元に届くようだ。

この両者のあり方、つまり、物売りに特化するか、書店員の育成に特化するかが、店舗に足を運びたくなる書店であるかどうかの違いとなって、現在に至るのではないかと思う。ここで注目すべきは、ある分野に特化した書店であれば、この先も生き残っていけると思われる事だ。現に、絵本、児童書の専門店などは各所に見受けられるし、私が知らない他の分野の専門書店というのもおそらく存在するだろう。

じつは丸善は愛想を尽かして以来、1度だけ足を運んだことがある。そのリニューアルした旗艦店を訪れた際、そこかしこに置かれた検索端末が目に付いた。検索結果には、本の棚の位置と置かれた段数まで出てくるようになっていて驚いた。ここまで徹底して書店員役をシステムへと追い出し、物売りに徹する方向性は、ジュンク堂とは対極のように見える。丸善は、残念ながらまだ”書店員”を増やすつもりは無いようだった。

*1:その昔、この点に愛想をつかした日記を書いた事がある。

*2:こういう学術界の特別な位置に居る丸善が無くなると問題だという話もあるが、過去に西村書店とか鈴木書店の時の話もあるので、なくなったとしてもどこかが肩代わりをするだけで、多少の混乱があるものの代替手段に収斂すると思う。

*3:DELLは生協を窓口にした校費払いに踏み切ったことで、学校関係でのシェアを大きく広げた。

*4:ただAmazonがつけ払いに応じるとは思えないが。