あおしまの日記

あおしまさんの日記らしいです。個人的に興味がある事を時々書きます。スマートウォッチPebble日本語パックを作成、公開しています。

音楽業界の疲弊を違法コピーのせいにする愚

前回は、音楽産業の成長力を高めるには企業がクリエイティビティの要素をもっと重視しなければならず、著作権施策もそれを後押しすべきである旨を説明しました。今回は、潜在的アーチスト発掘と並ぶ音楽産業活性化の重要な課題である著作権施策のためには何が必要で、著作権はどう関わるべきかを考えてみたいと思います。

これまでの施策の失敗

これまでの音楽産業活性化に向けた業界団体の施策は、だいたい以下のパターンに分けられるように思います。

  • (1)広告費のばらまき(メディア露出、タイアップなど)
  • (2)流行りのアーチストの押し込み(タイアップ、プロモーションなど)
  • (3)著作権の権利主張(違法コピーの取り締まり、著作権保護期間延長など)

しかし、音楽地方の現状を見てお分かりの通り、これらの施策の多くは失敗に終わっています。それは何故でしょうか。

(1)が短期的な効果しか発揮しないことは明らかでしょう。多くの音楽を伝える場としてはテレビとラジオが主要媒体なので、そこへプロモーションとしてアドレスすること自体は正しい。しかし、それらの非効率な体制を変えることなく予算をつぎ込むことは、的確なリーチ力のないマスメディアをそのまま維持するだけで、中毒患者にモルヒネを打ち続けるに等しいのです。

かつ、音楽業界が史上最悪の売り上げ減に苦しむ中では、永続性のないその場凌ぎに過ぎません。それよりも今必要なのは、音楽産業の競争力を強化すること、競争力のない音楽産業の事業転換を促進することであり、そのための施策がマスメディアへの広告予算ばらまきでないことは明らかです。

ちなみに、P2P登場以降の売り上げ減の煽りで、既に音楽産業の事業転換の成功例も出始めています。マスプロモーション偏重に甘え続けられないと諦めたからこそ自力で頑張り出したのであり、著作権保護強化がそうした時計の針を逆行させないか心配です。

要するに、P2Pのせいで音楽産業が悪くなったのではなく、逆に著作権施策が中途半端なままだから音楽産業は悪くなっていることを認識すべきです。ついでに言えば、地方のCDショップがシャッターをおろしているのは、別にAmazonなどの大規模通販店舗だけが悪い訳ではありません。P2Pやネット通販の問題についてのマスメディアのステレオタイプな論調には注意する必要があります。

音楽産業活性化とクリエイティブ産業

それでは(2)についてはどうでしょうか。これもなかなか効果を発揮していないように思えます。今や大型アーチストや新人アーチストをプロモートしようとしても、コスト競争となるとSNSをはじめとした口コミメディア、ネットメディアには勝てません。流行りの新人アーチストをメジャーデビューしようとしたら、そういうアーチストほどレーベルに魅力が必要であり、かつそうしたアーチストほど売り込み先を選ぶようになっています。大手レコード会社が魅力を高める努力を怠っている中でメジャーデビューに成功しても、結局は長続きするはずがありません。

この点について、米国の経済学者、リチャード・フロリダはその著書で、「クリエイティブな階層に属する人々(=優秀なアーチスト)は特定の企業や土地にしがみついて生活している訳ではなく、自分の活動にふさわしい土地、住み心地のいい場を選んで移住し始めている」と述べています。

この主張は、SNSでの音楽産業活性化の成功例を見ても正しいでしょう。myspaceなどの成功例に共通する特徴として、最初に音楽の受け手側の文化や環境を構成させ「アーチストに触れたい、音楽を楽しみたいと思う場所作り」を行っているからです。

それでは、日本で音楽産業を活性化するためには、どのようなアーチストをプロモートするべきでしょうか。

個人的には、流行りの大型アーチストよりもクリエイティブなインディーズの方が現実的で可能性も大きいのではないかと思っています。どのアーチストにも、他のアーチストにない伝統や文化、ルックスなどの資質があります。例えば、私が個人的に深く関わっている初音ミクを例に取れば、人工音声という機能以外に、ネタ、曲、容姿、ネギ、技術部などの素晴らしい文化があります。それらの多くが古いメタファーのままで現代にふさわしい形に進化していないので、それらを市場化することで多くの産業を生み出せるはずです。

要は、音楽産業は流行りの大型アーチストを無理に押し込んでミリオンアーチストみたいになろうとする必要など全くないのです。そもそもインディーズ界ではアーチスト間競争が進み、アーチストの間で再生回数やアクセス数の奪い合いが激しくなっており、既にインディーズアーチストなどはその点大型アーチストより先を行っています。

インディーズアーチストは、SNSで他のアーチストと競争しないといけないんだという認識を持って、自分にしかない魅力を活用した身の丈に合ったアーチストを育てるようにすべきであり、その観点から言えば、SNSやインターネットはインディーズに最もふさわしいプロモーションの場です。

そして、それを強化するためにも、インターネットを「音楽を聴きたい、楽しみたいと思う場」にし、いわゆるクリエイティブ・クラスのアーチストが定着するようにしなくてはならないのです。それは、ネット上に活動の場を移したい魅力的なアーチストが多いことからも明らかです。

残された論点

ところで、ネット上の音楽産業を強化する場合に忘れてならないのは、著作権を音楽産業の活性化にどう役立てるかということです。著作権と音楽産業の活性化がリンクして語られることはほぼ皆無ですが、実はここに無限の可能性があると思います。

また、上述の(3)の関連で、クリエイティブ・クラスの人が少ない音楽産業をどう活性化すべきかという問題もあります。

スペースの関係でこれらの問題まで一気に説明するのは難しいので、これらの点については次回詳しく説明したいと思います。